運動不足の人ほど動脈硬化性疾患やがんを含むあらゆる疾患による死亡率が高くなるということがわかっています。運動を行うと、中性脂肪が減り、善玉コレステロール(HDLコレステロール)が増えます。また、筋肉量が増えることで基礎代謝力が高まり、太りにくい体質になります。さらに、運動はストレス解消になる、血圧を下げる、血糖値を下げるなどのメリットがあり、高脂血症、高血圧、糖尿病をはじめとする生活習慣病の予防にもつながります。
生活習慣病の運動療法としては、ウォーキング、水泳、サイクリングなどの有酸素運動といわれる運動が推奨されています。有酸素運動とは、持続的に酸素を取り入れながら行う運動であり、運動中の血圧の上昇も軽度で、効果と安全性の面から適しています。たとえば、ウォーキングなどの有酸素運動を15分以上続けることで、体内に蓄積された脂質が消費され始めます。逆に、15分以内だと運動療法としての効果はあまりありません。運動量は年齢や症状によって個人差がありますが、30分以上の運動を毎日続けることが望ましいとされています。体調や天気に応じて、60分を週3回でもいいのですが、最低週3回以上、合計で週180分以上を目標とするとよいでしょう。糖尿病の運動療法に関しては、血糖値が上がりやすい食後1時間から1時間半後に行うのが理想的です。ただし、運動の量や種類は医師と相談することが大切です。
そこで、運動療法を安全に実施するために、運動可否の判定が必要となりますので、注意を要します。
運動可否判定について
運動の可否判定は以下の6段階に分けられます
A:無条件で運動可
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加齢以外に動脈硬化危険因子の保有がなく、自覚症状や慢性疾患を持たない70歳未満の健常者で、階段を無理なく登れる体力をもつ方
B:条件付きで運動可
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70歳以上もしくは低体力の健常者
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動脈硬化危険因子や慢性疾患を保有しているが、軽症もしくは治療されコントロールされており、運動プログラムを無理なく実行できると判断できる方
C1:精密検査が必要
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なんらかの疾患が疑われる方、保有疾患の重症度やコントロール状況あるいは治療内容の不明な方
(高血圧、糖尿病、不整脈、神経疾患、脳・心・血管疾患、呼吸器疾患、代謝性疾患、
腎疾患、肝疾患、整形外科疾患 など)
※
精密検査を行なわくても保有疾患が分かっていて、医療機関、医療施設で運動療法が適切と判断される場合はC2(次項)とする
C2:医療機関、医療施設における監視下の運動療法(リハビリテーション)
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カテゴリーA、B以外で運動療法が必要な患者
D:運動禁忌、厳重な注意が必要
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急性期・活動期疾患(上気道炎や胃腸炎などの短期間で治癒する疾患も治癒するまでは体力テストも不可)
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不安定狭心症、重症不整脈、中等度以上の大動脈弁疾患、肥大型閉塞性心筋症、解難性大動脈瘤、左冠状動脈主幹部狭窄、肺高血圧症、僧坊弁狭窄症、うっ血性心不全、コントロールされていない疾患の保有者
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重度の身体・精神障害、毒物中毒、電解質異常
E:精密検査ができないなどの理由で、適切な判断ができない患者
運動プログラムの内容
運動プログラムは、軽度〜中等度の筋力トレーニングと有酸素トレーニングから構成される。
筋力トレーニング
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始めの3ヶ月は、上肢、体幹、下肢の自分の体重を使用した軽度のトレーニングを行い、以後6ヶ月毎に体力、筋力の向上にあわせてゴムチューブやウェイトを併用して負荷を増す。1部位10回×1〜3セット、2〜5日/週を目標にする。
有酸素運動トレーニング
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施設でのトレーニングでは各個人の体力に合わせた強度に設定し、自転車エルゴメーター運動を30分/回、週2回を目標にする。
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家庭におけるトレーニングでは、歩数計を利用してウォーキングを行う。運動量は1日8000歩、週5〜7回を目標にして、徐々に増やしていく。また、1日のうち30分以上は早足で歩くように心がける。
70歳以上の高齢者、低体力者および骨・関節・筋肉の痛みや障害の保有者には、運動負荷(強度、量、頻度)を軽くするか、実行可能な運動様式のプログラム(機器による受動的な運動)を用意する。
高血圧、糖尿病、不整脈および他の疾患の保有者で、運動が禁忌でなく、特に医療機関(施設)における監視下の運動療法を必要としない場合には、上記の運動プログラムを適用するが、症状に合わせて運動負荷を軽減する。